言語学などの話をするブログ.

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A Merge-only Viewが秘める言語生得仮説への可能性.

皆さんこんにちは、ダイキです.

大学院は、今所属している大学ではなく他の大学の大学院に行くことになりそうだ. というのも、やりたいことをやることが勉強、あるいは研究だと思うので、自分にとって最も魅力的な研究をされている教授のもとで学ぶことを決意したのだ. まぁ、ここで四年間も過ごして、鋭敏な知性というものを感じさせる学生がいないことが解り、故に刺激が足りないのではないかというのもこの決断の理由の1つだが(能ある鷹は爪を隠すというので、結構じっくりと期待しながら観察をしてはいたが…).

 

今回は、前回の記事の続きということで、NeurolinguisticsやBiolinguistics、更にはEvolutionary Linguisticsに基づいた言語生得仮説の可能性について論じたいと思う.

 

一口に進化言語学や生物言語学、あるいは神経言語学と言っても、その様態は多種多様であり、OIC(Ostensive-Inferential Communication)に基づいた関連性理論、認知理論的なアプローチを試みる進化言語学や、言語の歩んで来た歴史に着目をすることで普遍的な規則を探る歴史言語学的なアプローチを試みる生物言語学などがある. ここでは、私の専門である理論言語学(生成文法)に基づいて、言語の起源とその原因を探っていきたいと思う.

 

Chomsky(1995)から盛んとなっているミニマリストプログラムという生成文法の新展開において、その理論の中核を担っているのがMergeという操作である. Mergeとは、ある要素AとBを併合し、そのセットにラベル付けをするという操作を指す. これが再帰的に行われているのが人間言語であり、Mergeは人間に特有の操作であるというのがChomskyの主張である. GB理論やP&P、あるいは障壁理論において用いられていた規則はほとんど廃止されており、従来の生成文法理論において最も重要な要素であった移動という操作も、内併合(Internal Merge)という操作に置き換えられている. Mergeのすごいところは、その操作のみであらゆる言語現象を説明できる可能性を秘めている点である. フェイズ不可侵条件や連続循環移動などは、言わばMergeという理論に付随して生まれる二次的な規則であり、広い意味でMergeの下位範疇であると言えよう. Mergeという操作は、科学理論としても美しい. 科学において最も重要だと言えるparsimonyという概念を貫いている. 本当にチョムスキーは天才であるという事実を感じさせる画期的な理論である. 

 

まぁ、Mergeの説明はここまでにして、具体的な内容に入っていきたいと思う. Fujita(2009, 2014, 2016)やGreenfield(2002)などにおいて提唱されている言語生得仮説への新たなアプローチとして、「Mergeそのものは人間以外の生物も持っており、それを言語に応用することが、人間のWorking Memoryの能力の進化とともに可能となったため、人間言語にはMergeという操作が存在するのだ」というものがある. その様相について簡単に説明する.

 

[Action Merge]

Action Mergeとは、言語に応用される以前のMergeのことであり、例えばチンパンジーがnutsを割るという動作に、この操作が適用されている.

チンパンジーがnutsを割る時に使用する道具は、hammer、anvil、そしてwedgeである.

まず、wedgeとanvilをMergeすることで、nutsを置く安定した土台を作る. この時に、

 

α {anvil, wedge}

 

というセットが生まれる.

こうして完成したαというセットに、主役となるnutsを外併合(External Merge: EM)することで、次に生まれるセットが、

 

β {nuts, α {anvil, wedge}} 

 

である.

そしてこのβにhammerをEMし、チンパンジーのnuts割りという動作が完成する.

 

γ {hammer, β {nuts, α {anvil, wedge}}}

 

こう考えることで、言語即ちMergeという操作のPrecursorを仮定することができ、ひいては言語というものがコミュニケーションツールとして生まれ、発展してきたのではなく、the instrument of thoughtとして突然変異的に人間の脳に生起したという仮説を強固にすることが出来る.

 

このような操作を言語に応用したのが、Pot-MergeとFujita(2016)が呼ぶ操作である.

 

[Pot Merge]

Pot-Mergeとは、ある要素A, B, C (A>B>C)が存在する時に、その大きさ(要するに重要性)に従ってAとBをまず併合し、そうして完成したセットに一番小さいCを併合するという単純なrecursive Mergeのことである.

 

それとは別に、Sub-Mergeという操作が存在するという.

 

[Sub(assembly)-Merge]

Sub-Mergeとは、先のようなA, B, Cが存在する時、まず一番大きなAではなく、BとCを併合し、そのセットにAを併合する操作のことを指す.

 

Pot-MergeとSub-Mergeは似ているというかほとんど同じように思われるかもしれないが、そこには決定的な差がある.

Pot-Mergeが、単純に大きさに従って順次Mergeを行なう作業であるのに対し、Sub-Mergeでは、"意識的に"Aを無視してBとCを併合したのちに、そのセットと最も大きいAとをMergeするのである. 当然、この意識が働いている分、Sub-Mergeの方がより多くのWorking Memoryを要求するため、脳への負担が大きい. このSub-Mergeを行なうことが出来るようになった時点で、人間言語が生まれたのではないかと言うのがFujita(2016)の主張である.

 

たとえば、a student film committee Fujita(2016)という名詞句は、以下の2通りの解釈可能性を持つ.

1: a {{student, film}, committee}

2: a {student, {film, committee}}

 

この多義性は、分散形態論における統語規則を適用した考え方( Marantz(1997) etc)を用いれば、Pot-MergeとSub-Mergeの違いであるとすぐに気づくことが出来る. 

2の解釈が1の解釈よりも得られやすい理由は、2ではcommitteeを常に基準とした併合である(すなわち併合の始点から着点まで一貫してcommitteeがラベルとなっている)、Pot-Mergeであるのに対し、1ではstudentとfilmがMergeした時点でstudent若しくはfilmがラベル付けされたセットにcommitteeがMergeすることで、今度はcommitteeがラベル付けされるという、Sub-Mergeであるためである. Sub-Mergeの方がより高度なWorking Memoryを要求することから、2の解釈の方が簡単に得られるのであろう. 

 

以上のことをまとめると、人間言語は我々の脳内に存在する、Mergeという操作、厳密には、Action Merge、 (ここでは述べていないがPairing-Merge:ある要素AとBを単純に併合する操作のこと.)またPot-Mergeよりも高度なWorking Memoryを要するSub-Mergeによって可能となった生得的なドメインであり、Mergeそのものは他の動物も有している. Action MergeからLinguistic Mergeへの進化がそのまま人間言語の起源の謎を探る手がかりであり、what is human language?という問いに対する答えを持っていると考えられる.

 

その他にも、この考え方を利用したlabelingについての諸問題の解決案や、この理論の持つ問題点などについても触れておきたいが、長くなりそうなのでまたの機会にしようと思う.

 

そう言えば、私が崇拝するミュージシャンの一人、David Bowieの展示会予告映画 David Bowie Is...(ちょうど去年の今頃に難波の映画館で観た覚えがある)において、Davidが「麻薬に頼らずに哲学的で面白い歌詞を書くには、こうやって単語やフレーズをバラバラにしてそれぞれをパソコンを使って一個ずつ組み合わせて、それを積み上げていくんだ. そうして出来上がった歌詞の一部一部には、その歌詞において中核を担う要素が存在する.」というようなことを言っていた. なんと、Pot-MergeあるいはSub-Mergeとそっくりなことをしてるじゃないかと、感動の余り鳥肌がたった覚えがある(その頃はPot-MergeやSub-Mergeという言葉そのものは知らなかったので、正確にいうとMergeそのものを想起した).

 

最後に、なんとなく英文を書きたい気分なので私の考えを英語でまとめておく.

 

In this century, scientific fields can never maintain its existence unless they absorb critics' logical and beneficial knowledge or standpoints. Syntax (or theoretical linguistics) is not an exception at all. To seek the origin and evolution of language, it is necessary to expand our horizons and look at each phenomenon and law of language grammar from an interdisciplinary point of view. This neurolinguistical and biolinguistical approach consists of such a very significant way of how science should be, which might enlighten us and give us the clue to answering the simple and extraordinarily difficult question: "what is human language?"

The axioms and theories in the field of the Minimalist Program are all based on the single operation: Merge, which is desirably and idealistically parsimonious and beautiful as a science theory. Merge can yield evidence of the existence of UG.

 

[reference]

Chomsky, N. 1995. The Minimalist Program. Cambridge, MA: MIT Press.

Fujita, K. 2016. On the parallel evolution of syntax and lexicon: A Merge-only view, Journal of Neurolinguistics.

Hauser, M. D. 2009. Origin of the mind (pp. 44-51). Scientific American.

Hayashi, M. 2007. A new notation system of object manipulation in the nesting-cup task for chimpanzees and humans, Cortex, 43, 308-318.